経営孫子
byYoukichi Haraguchi
経営方針、経営戦略についての考え方
この資料は、40才のころ、「孫子の兵法」をもとに企業論、経営者論、営業論などについてまとめていたものの一部です。 私自身の考え方の基本であり、「経営方針、経営戦略についての講義ノート」として提案いたします。せっかく書き留めていたものであるし、参考になることもあるのではと考えます。
 今から2500年前の兵法書「孫子」については、前から興味を持ち、自分なりに研究していたもので、文献で調べたものを日記のようにファイルしていたものです。
 不必要と思われる部分を削除したりしたため、文章的に前後したり、重複する箇所もあるとは思いますが、ご容赦ください。

〜〜 目次 〜〜      「孫子」原文を経営の観点から現代語訳してみました。

企業の原則について

事業の本質について

事業計画について

新規の事業について

戦略の原則
最上の戦略とは

組織について

社内体制について

成功するということ

経営戦略について
営業活動について

企業の発展について

他社との協力について

兵法とは


兵とは国の大事なり

 営業活動は、企業にとって一番大切なものである。
営業活動なくして、企業は成り立たない。
 従業員全員の生活がかかり、企業の存亡に関わるものである。
 経営者はどれだけこの事を意識しているであろうか。

 命がけの仕事なのである。

 何のために企業活動をするのか、
その企業の営業方針(企業の存在意義)を考える場合は、
次の5原則に照らし合わして考えるべきである。

<基本方針の5原則>
1.企業の存在意義
2.発展性
3.必要性
4.創造性
5.永続性

   一つ一つの具体的な事業を考える場合も、
   この原則を認識しているかどうかが成功の決め手になる。

以下の文は孫子の言葉をそのまま現代語訳した。彼の自信の言葉である。

現実は、理論通りにいくものではないという人がいるが、
私の理論は、現実を離れたものではない。
現実の中に理論を見つけだして整理したものであるから、理論は現実であり、現実は理論である。

 よく人は、「理論と実戦は違うよ」とか、「そう思いどおりにいくものか」とかいうが、それはその理論の勉強が足りないのである。
真実は必ずある。

 そして、「理」にかなった提案が採用されれば、それによって、各人のやる気と、会社内の雰囲気と、「勢い」を作り出すことになる。

 「勢い」とは、もっとも大切なものであり、合理的な判断による成功の予感・有利な状況を認識できたとき、
その状況にあった対応をしたときにはじめて生まれるものである。



兵とは危道なり

 事業の本質について述べる。

 事業とは、「社会貢献という利益」を与えることにより、その「対価としての正当な利益」を得ることが目的(大義名分)であるが、その本音は、「いかにして儲けるか」ということであり、「儲ける」ためには、当たり前のことをしてもだめで、”いかがわしさ(おもしろさ、意外性)”が必要である。

☆ダイエーの経営理念に中内オーナーの次のような言葉がある。
「新規事業進出に関して、新しい仕事が成功するには、”いかがわしさ”が伴うことが必要である。
いかがわしさとは、おもしろさと意外性である。
当たり前のことをしても、ビジネスにはならない。
常識にそぐわないことをなすべきである。」









算多きは勝ち、算少なきは勝たず

 孫子は、計画とは、数量(数字)で計るべきだと次のように述べている。

 事業の計画について、「計画が成り立つ」と言うのは、
基本計画の5原則と、状況判断の7つの条件について、具体的な項目毎に検討して、成り立つと考えるからである。
 具体的な、項目を列記して、○×を記入し、○が多ければ、成り立つし、○が少なければ、成り立ちにくい。
 ×ばかりでは成り立たないのが当たり前である。
 このように、具体的な根拠を持って、事業というものを判断すれば、成功するかしないか、はっきりと断言することができる。
 そして、企業にとって「新規事業への投資」は、大変な負担を強いるものであるから、事業のめどがたてば時期を逸せず迅速に行動することが大切である。

故に兵は拙速なるを聞くも、未だ巧久なるをみざるなり
 だから、事業は準備不足や、費用が足らなくても、素早く取り組み、成功したという例はあるが、準備期間を長くかけて、成功したと言う例は、私はまだ聞いたことがない。

用兵の害を知らざる者は、・・用兵の利をも知ること能わざるなり
 事業の危険性をよく認識できない経営者は「儲かる事業計画書」を作成することはできないし、その事業の利益も認識することはできないものである。

智將は務めて敵に食む
 営業のじょうずな者は、内勤スタッフを効率よく利用し、無駄な「足」を使わず、無駄な経費を使わず、契約が済み、顧客からの入金を確認して、行動する。
 だから、無駄な金は使わないし、先行投資による「損」をする事はない。
 どちらも、人の力をあてにせず、人の力を利用して動く。



新規の事業を考える場合、

市場が遠く(市場が成熟していない)、営業経費、開発費がかかる市場は競合も少なく、「利幅」は多いが、その営業エリアが、各々遠く離れていたり、営業経費がかかるなど効率が悪くなるため、その事業は儲からない。
市場が近く(競合が激しい)、営業経費がかからない場所は、「利幅」も、少なくなり、その事業は儲からない。

 だからその計画段階では、その市場調査及び準備にできるだけ費用をかけず、他社の成功例、アイデアを盗み、自社の事業計画に生かすようにする。

 「まねをする」ということは、ゼロから考えるより、何十倍も楽であるし、費用も時間もかからないものである。

 競合に勝つというのは、営業の能力、企業の資本力、勢い等によるが、より「儲かる」為には、競合相手を取り込み、買収し、協力しあった方がよい。

 相手の優秀な人材を引き抜いた者を、その者達の責任者とし、引き抜いた者を社員と同様に優遇し、こちらの戦力にする。

 これが、新規事業参入に成功し、事業を拡大する方法である。

 ライバル会社の人材を利用することによって、ライバル会社の力をそぐことができるしその会社の事情秘密等も知ることができる。

 まさに一石二鳥とはこの事である。
企業が大きくなった例を調べてみると、ほとんどがこの方法を取っている。
競合に勝つのが目的でなく、「儲かる」のが目的であるから、価格競争やシェア競争をする事は、企業の体力を消耗するだけであるから、すべきではない。
フェアな競争などありえないのであり、強い者がフェアという言葉を使う。



孫子の兵法の極意が、次の言葉である。

百戦百勝は善の善なる者に非ざるなり。

戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり。

 「争うことは、やたらとすべきではない。しかし、争えば必ず勝たなければならない。そしてできれば、相手を傷つけず、争わないで勝ちたい。」これが戦略の原則である。
 人間の歴史は、争いの歴史であり、現代もまた未来もなくなることはない。
 国同士の場合でも、企業同士の場合でも、社内のライバル同士でも、個人の場合でも、競争するということは避けることができない。

 これが人間の本質である。

 しかし、その争いに、ことごとく勝っても、「最善の生き方」とは言えない。

 何となく、相手を納得さして、争わずに心服させて、協力させ、平和に生きることが「最善の生き方」である。


    目的は、勝つことではなく、「利」を得ることである。
    人間は、勝つことばかりにとらわれていると、それ自体が目的となってしまう。

 もっとも巧妙な戦術は、後で考えると特別に変わったところがなく、誰でも思いつかないのが不思議なような気がするものである。

 すべて、アイデアというものは、こういうものであり、自然の法則、流れに沿った考え方をする事が大切である。

 勝つべくして勝つ。勝つのが当たり前。
 こんなに楽して儲かってよいのだろうか。これは、理想である。
しかし、後で考えるとなるべくして、なるのである。



故に上兵は謀を伐つ。その次は交を伐つ。その次は兵を伐つ。その下は城を攻む。

 最上の戦略とは、相手の戦略・思惑・本音を察知し、それに先制攻撃を加えることであり、
 次善の策としては、相手に協力している者、補助をしている者を攻撃して、相手を孤立化させることであり、
 その次は、万全の体制で戦うことであり、
 最もまずいやり方が、相手の「城」を攻めることである。

 「城」とは、相手が得意とするもの(分野)、大切にしているもの、営業の基盤、地盤等のことであり、そこを攻めるという方法は、ほかに方法がなく、やむを得ない場合にだけおこなうものである。
 相手は、自信を持っているので、そこを攻めるための準備には、費用も時間もかかり、こちらの損害を少なくするための準備も必要である。

 準備期間が長くかかるということは、事業のタイミングを逸し、また、準備不足で攻撃すれば、効果は期待できず、費用ばかりかかってしまう。
そして、ついに撤退することにでもなれば、企業の存亡に関わる。
 これが、相手の「城」を攻めることの害である。

 だから、企業の成功の原因は、
「競争相手との競争に勝った」からという訳でなく、結果として、その業種のトップ企業になっても、「長年商売をしているから自然になった」伝統と言う理由によるものでもない。
 その企業が、「顧客のニーズにあったよりすぐれた製品を、適正な価格で、正しい商売のやり方とサービスで提供する」などの理由により、自然に世間に認められることにより、「儲かった」のであり、成功したのである。
 世間の評判、人気によって、自然に成長したのであるから、無理な事業計画、営業政策の必要もなく、結果として短期間の内に大きくなることができる。

 これが成功の原則である。

 事業戦略の基本は、企業の力が、その市場の中で強ければ、シェアを拡大してトップの座を守り、ライバル会社の商品と競合させて、競争し、力が同等であれば、全力で戦い、シェア拡大がむずかしい場合は、その市場から撤退し、その「すきま市場」をねらう。
 技術力に自信があるからと、小さい企業のくせに、強気の戦略をたてるのは、営業力のある大企業に利用され、乗っ取られるだけである。



 組織について述べる。

 管理職とは、社長の大切な補佐役であり、管理職と社長との関係がうまくいっている企業は、必ず成長するが、そうでなければかならず企業は衰退する。

 具体的に述べると次のような場合は、社長と管理職の関係はよくない。

1.市場の状況は、積極的な事業戦略を行うべきではないのに、それを
  知らない社長が管理職に、積極的な営業を命令し、逆に積極的な営業が
  必要なときに、それを止めたりする。

2.営業現場の経験もなく、内部の事情も知らない社長が、管理職の頭ごしに、
  社員に直接命令をする。社員は、どちらに従うか迷ってしまう。

3.その時々の営業現場の事情により、臨機応変に対応していることを、
  社長が、原理原則ばかりをいって干渉する。
  社員は、社長の能力を疑ってしまう。

 管理職や社員が会社に対して迷ったり疑ったりして、組織がうまく機能しないようになると、企業の競争力も落ちて、他企業に付け込まれてしまう。

 組織力(社長、管理職及び社員のそれぞれの責任の認識と協力関係)がなくては、企業の成長はない。

 だから、次のような企業は、成功する。

1.攻めるべき時と、攻めてはいけない時を知る。
  =社長
2.その企業の規模に応じた事業の戦略をたてることができる。
  =管理職
3.社員相互の親愛間と団結意識があり、社内の体制が整い、組織力を
  十分に活用することができる。
  =社員
4.十分な市場調査と、準備によって、確実な情報をつかむ。
  =情報力
5.管理職が有能で、社長が現場に干渉しない。
  =組織力

 これら5つのことが事業成功のポイントである。

故に曰く、彼れを知りて己を知れば、百戦してあやからず、
彼れを知らずして己を知れば一勝一敗する。
彼れを知らず己を知らざれば、戦う毎に必ずあやうし。


相手の意志、能力、環境をわきまえ、自分の能力、立場を知れば、必ず勝つ。



善く守る者は九地の下にかくれ、善く攻むる者は九天の上に動く

 企業経営の成功例を聞くと、社内体制の重要性を説く人が多い。
 優秀な経営者は、事業を成功させるために、成功することを前提とした体制を固めたうえで、どんな状況にも対応できるようにして、営業活動を行う。

 体制とは、「内部事情」のことであり、営業活動とは、「外部の要件」が関係する。
 だから、優秀な経営者でも、社内体制は自分達の創意工夫・努力次第で、確立することができるが、営業活動は、相手があることであるし、思いどおりにいかないこともある。

 したがって、
成功する方法は知ることはできても、実際に成功することはむずかしい。
と言われるのである。

 また、社内体制とは、「守り」であり、営業活動とは、「攻撃」である。

 社内体制が確立されていなければ、営業活動をしても内部で処理できないために利益は確保できず、信用も落とす。

 営業活動をするのは、社内体制に余裕がある場合である。

 管理がうまい管理職は、内部事情を知られることも、社内の弱点を知られることもなく、営業のじょうずな管理職は、相手の意志、行動、弱点をよく知って活動する。
 どちらも、その思惑を知られることがない。

 だから、そのような管理職を持つ企業は、市場の変化にも、景気の動向にもよく対応し、順調に成長することができるのである。

【注】 景気の善し悪しに企業が左右されるということは、営業の問題と言う
    より、内部体制の問題である。
    「売れない」とは言い訳であり、結果には必ず理由がある。
    その理由を分析したうえで、体制を整える必要がある。
    1.どんな状況にも対応できるような体制を作ること。
    2.売れる商品を作り、売れない商品は、ズバリ切り捨てること。
    3.組織内の人材をどう生かすことができるか。

    以上が、経営者にとっての一番大切な能力であり、営業力はその次である。




勝ち易きに勝つ

 「成功した」とか、「立派である。」と言われても、何を基準にするのかわからないものであり、一般の人から言われたとしても、たいしたことはないものである。
 事業がうまくいき、会社が大きくなって、「善い会社」と世間の人がほめるのも、また、たいしたことではない。
 これらは、一時期の問題であり、企業は、継続が命であり、常に成長しつづけなければならない宿命を持っているものである。
    これらは普通のことであり、ほめられることはない。

 昔から、本当の成功者は、ちょっとした「きっかけ」、「チャンス」を生かして、成功したものであり、その小さな成功を一つ一つ積み重ねる努力によって成功したものであり、後で考えると、当たり前の考えで、当たり前の行動をしたように見えるため、目立つことはない。
 自然の流れ、時代の流れに沿った、当然の企業活動をするのであるから、成功するのはまちがいなく、まちがいがないと言うのは、その活動を起こす前に、わかってしまうという事である。

 体制(方針)をととのえて行動するから、ちょっとしたチャンスを見逃さず、臨機応変に対応する事ができるのである。
 このようなわけで、成功する企業は、まず成功する事を前提に体制を整えてから事業を始めるが、成功しない企業は、まず事業を始めてから後で体制を整えようとする。

    「体制を整える」とは、言う事はたやすいが、難しいものである。

    体制の第一の条件は、「人材」である。

    つねに、人材を求める姿勢、組織内の意志の疎通、協力体制、雰囲気等これらはすべて、社長次第である。
    結局、「企業は人なり、リーダーの能力次第である。」




 経営戦略には、次の5つの事柄が大切である。

1.調・・・市場の規模、発展性を考える。
2.経費・・・必要資金と必要経費を考える。
3.管理・・・必要人員の確保、組織の編成を考える。
4.採算・・・投入資金の利回りとリスクを考える。
5.利益・・・利益の見通しをつける。

 この手順が良ければ、自然に成功する。

 成功する事業は、このように万全の体制を整えて、事業活動を行っているから成功するのであり、失敗する事業は、この基本をわからずに、活動しているから、失敗するのである。

勝者の民を戦わしむるや、積水を千じんの谷に決するが若き者は、形なり

 以上の経営戦略を心得ている経営者が、社員を動かす場合は、ちょうど満々とたたえた水を戦陣の谷底へきって落とすように、万全の体制を整えて、一気に集中して、目標達成に向かって活動させる。
 だから、成功するのである。

【注】 この孫子の「積水」から、社名をとったのが、積水化学である。
    孫子を研究している経営者は多い。

営業のやり方(経営戦術)について、大切なことは次の事柄である。

1.営業組織 企業経営において、多数の社員を管理するのに、合理的に整然と組織が動けるようにするためには、部課の編成が大切である。
2.営業管理 営業社員を大勢、使用して業績の向上を、効率よく確保できるのは、目標の設定、達成に対する報酬などの合理的な営業管理が大切である。
3.営業政策 市場の変化に応じて、個別の商品の販売方法も、強気の正札販売や値引き等による処分販売などとの使い分けが必要である。
4.営業企画 イベントなどの営業企画を成功させるためには、十分な体制で、「驚き、面白さ」を利用した”新しい”広告宣伝が必要である。




正を以て合い、奇を以て勝つ。

 そもそも、営業活動「商売」というものは、常識どおりの正攻法で「対応」するのが原則であり、状況の変化、相手の出方に応じた「対応」で、イエスと言わせるものである。
だから、営業活動「商売」のじょうずな企業は、顧客のニーズ、市場の変化に対応して、臨機応変に常にその方法を変化させることができるので、常に新しく、その変化はつきることがない。

 商売の駆け引きは、「押し」と「引き」の二通りしかないが、そのタイミングはとても極めることができないほど難しいものである。

 そこで、最も大切なものが「勢い」というものである。
 営業活動の原則は、「勢い」と「節目」である。
 企業経営にも、同じことが言える。

孫子の原文には、
 「せきかえった水が激しく流れて、石までも漂わせるのが勢いである。

 「猛禽がひとうちにして打ち砕いてしまうほどであるのが節目である。

 こうゆうわけで、戦いに巧みな人は、その勢いは険しく、その節目は切迫させる。

 勢いは石弓を張るときのようで、節目は引き金を引くときのようである。

とある。

【注】 「勢い」とは、迫力とか、熱心さとか、自信とかが、含まれる。
     これは、誰でも理解できることであると思う。

    「節目」とは何か。
    客に決断させるためには、この節目が最も大切である。
    その場で、決断を促し、時間をおいてはいけない。
    待ってはいけない。
    逃げ道を与えないためにも時期を区切る必要がある。

    企業経営にも、「勢い」と「節目」が大切である。
    「勢い」とは、その企業の雰囲気や、活気でわかるものである。
    「節目」がなければ、目標の設定、結果に対する業績の判断もできない。
    節目を決めて、反省と新たな決意をする事は、各々個人にとっても大切なことである。




 企業組織の硬直化は、企業が発展し、組織が巨大化する事から生じる。
 企業の規模、発展に応じた、社内体制の変化を常に心がけるべきである。
 営業政策の保守化は、その政策が成功し、販売がうまくいった経験から生ずる。

 企業の衰退は、急激な成長の後に生ずる。
 そして、企業が発展するかどうかは、組織の体制による。

 規律が厳しければ厳しいほど、その体制についてゆけないものがでて、組織が乱れてしまうものである。だから、厳しければ良いというものでもない。

【注】 人が親しみあえばあうほど、他の人は、排他性を感じる。
    平等の中には、必ず不平等がある。
    中国思想の根本にある「陰」と「陽」の考え方も同じである。
    そのバランスが大切であり、常に変化に対応する中国のしたたかで
    柔軟な思想がその根本にある。

利を以てこれを動かし、詐を以てこれを待つ

 営業において、顧客を得るためには、
顧客の利益になることをはっきりと示せば、それに反応するし、
その利益を与えれば、必ずそれを欲する。

 つまり、利益を見せて誘い、その裏をかいて、こちらの利益とするのである。

    企業発展の基本は、社会に「利」を与えることであり、営業の基本は、顧客に「利」を与えることである。

故に善く戦う者は、これを勢に求めて人に責めず

 能力のある管理職は、営業活動の「勢い」によって勝利を得ようとするものであり、個人の能力、人材に頼ろうとはしない。

 適材適所で、人を選び、その勢いのままに、活動させることができる。

【注】 企業の力は、個人の力ではなく、組織力である。
    その原因や責任を、個人の力に求めるのではなく、組織の問題であると言うことは知っていても、解ることは難しいものである。
    営業マンはとかく社内体制のせいにして、自分の実力が出せないと文句を言いがちであり、管理職はとにかく営業をせめて「根性」とか、「意欲」とかを強調しがちである。
    「雰囲気」が一番大切である。




諸侯を屈する者は害を以てし、諸侯を役する者は業を以てし、諸侯をはしらす者は利を以てす

 だから、
 他社を屈服させるためには、損害を与えるような行動をし、他社を利用するためには、共同事業をし、
 他社を奔走させるためには、利益を与える。


【注】 人を動かすための極意とも言える。
この仕事をする事が、多少利益があっても、害が大きいと判断すれば人は動かない。
利があるような話をすれば、頼まなくても、自分で情報を集めるだろうし、具体的に利益を提示すれば、黙っていても動くものである。

    自身は動かず、他人に仕事をさせる為のテクニックである。



さいごに


兵法とは「人間を対象とした術」であり、知・情・意をそなえた人間を相手にしたものである。
人間というものをよく知らない以上、できる事ではない。
 敵、身方の心理をたなごころの上にのせているがごとくよく知り、その変化を察し、その機変を利用して、欲するところに引きずり込んで勝ちを制するのが兵法だという。
 その応用面の広さ、奥深さは、古典というにふさわしく、現代にもりっぱに通用する普遍的な書物といえる。

われわれの日本文化と中国の文化は、儒教・仏教・道教に、原型を求めることができるが、似て非なるものといえる。それは、「孫子」の理解の仕方の違いにも現れている。

 そもそも、中国文明を貫いている思想とは何か。

1.中国文明の特質は、バランス感覚である。
     中国人が考える宇宙は次のようなものである。
    「陰」と「陽」、この二つが存在し、陽がきわまれば陰になり、陰が極限に達すると陽に転化する。
     常にバランスをとり、対立と同時に融合し、融合と同時に転化する。
     このバランスのうえにすべてのものがなりたっている。

    このように、中国人は、二元的なものの見方をする民族なのである。

日本人は、裏表のある人間を好まず「竹を割ったような性格」をよしとするが、中国人は、裏表がなければいけないと考える。
公と私、内と外二つのことをはっきりと区別できることが教養であると考える。

  2.大局的な視点を持つ。
    物事を上からみる。
上からみるから陰と陽があるのがわかるのであり、その、バランスが理解できるのである。
日本人は、平面的にしかみないし、物事を直視する傾向がある。
明治以降、日本人は西洋志向になり、二者択一的な考え方に染まっていった。
そして、その考え方が、現在行き詰まりを見せているのである。

 「孫子」は、この中国的な発想に基づき書かれたものであり、これを理解するためにはそのバランス感覚を理解する必要がある。
 「兵は奇道」であると説いているが、「正道」があってはじめて、成り立つ理論であり、平面的にとらえると、その言葉の裏を理解できなくなる。

 「利」というと、「何かいやなものみたい」に考える日本人にとって、孫子の言う「利」の奥深さは、なかなかむずかしい概念かも知れない。

 私が、この孫子に感じたのは、その宇宙感であり、また、そこに、新しさと共感を覚えたものである。


経営孫子------終わり