Inner management-Colum 04(コラム)

ある食品会社での講演シナリオ

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 ≪以下の文章は、ある食品製造会社での、講演で話した内容です。400人ぐらい会場で、職場のQCサークルの発表会があり、その審査発表があるまでの時間のつなぎとして頼まれました。自分のための雑記帳として取っておきたいのでブログに載せます。2008/06/26≫
 普通の講師は、しゃべる。良い講師は説明する。優れた講師は、示す。そして偉大な講師は心に火をつける。この言葉を胸に、登壇。
【講師については、事前にプロヒールなどを紹介済み。】
 「インナーワークなどは、以前すでに記載している内容です。」


No.1 ・・・にもかかわらず笑顔で仕事する 

 ただ今、ご紹介いただきました人材育成コンサルタントの○○と申します。
 本日は、45分ほど、講演のお時間を頂いております。皆様の職場の活性化のために『・・・にもかかわらず笑顔で仕事する』という題で話させていただきます。よろしくお願いします。

テーマについて

 仕事柄、いろいろな企業を訪問させていただいています。そこでよく感じることは、「皆さん元気がないな」ということです。特に忙しくて、毎日、スケジュールに追われている管理部門の担当者、中間管理職の皆さんです。
 社長さんやトップの管理職の方は元気があり迫力と熱意を感じるのですが、社員さんは元気がない。
 元気な上司は、部下に「がんばれがんばれ」と北風をおくり、素晴らしい社長さんは太陽のように社員に声をかけながら、自分たちは社員の何倍も働いています。しかし、その北風も太陽もなーんにも感じない社員もいます。
 目標管理、資料作成、目先の仕事に追われて自分のことだけで精一杯なのでしょうか、それとも何も考えていないのでしょうか。 余裕がありません、忙しすぎるのです。日本の社会全体が、忙しすぎるように感じます。
 今回この講演のテーマを考えていた時、御社のホームページに次のような言葉がありました。
『自然の元気をそのままごちそうに変えて食卓に届ける。』
 私たちは、朝昼晩と三回食事をしますよね。体に食事が必要なように、心にも元気という食事が必要なのです。できればおいしい食事を・・・。
 私たちの心も、ごちそうを欲しています。
 で、ごちそうとは何だろうと考えました。
 そうだ、ごちそうには笑顔がついている。
 笑顔について話そう。
 笑顔で仕事をすれば、元気になれる。
 そして、『・・・にもかかわらず笑顔で仕事する』ことで、職場環境が良くなるはずだ。
≪ちょっと、強引なこじつけですが・・・≫
 このような勝手な理屈で、テーマが決まりました。これから皆様の心に元気という食事を与えるお話をしたいと思います。
 最初に五つのエピソードをお話します。食事で言えば前菜です。一つひとつのエピソードにいい言葉があります。ちょっと美味しい話です。その後、メインディッシュとして心理学の技法を紹介したいと思います。そして、最後に、言葉のデザートもあります。
 ご清聴よろしくお願いします。

No.2 「言葉との出会い」 

 この講演だけでなく、他のセミナーやいろいろな場面で、皆さんは多くの言葉に出会うと思います。映画のセリフに感動したり、涙を流したりします。職場でも、上司の言葉に対し、共感したり、違和感を覚えたり、がっかりすることがあるかと思います。
≪例えば、朝礼で上司が話している言葉に対して、あーっあっ・・・とか。≫
   皆さんは無意識のうちに、こうした言葉との出会いに対して、自分自身の「想い」を持っています。実はそこに個人の個性や価値観が表れます。
 今から、私はいろいろな話をします。その言葉を聞かれたときに、その時々の自分の感情の変化「気づき」に焦点を当ててみてください。
≪おっ、いいこというやん。とか≫
 なぜこんなことを言うかといいますと、実は、セミナーでこのような話を始めますと、嫌な顔をする人がいるのです。「考える」こと自体を嫌がる人がいます。会社の指示で、研修を受けているわけですし、受けたいと思って受けたわけではない。
 ≪きれいごとはいうな。別に聞きたくもない。≫
 このような感情がその人の顔の表情に表れて、講師の私に訴えてきます。 職業病というのでしょうか、わたしは、皆様の表情を観察しながら話しているものですから、敏感に感じ取ることができるようになってしまいました。
 私の印象が悪いのか、「私の言っていることに反感を持っているな」と不思議とわかります。私の話を聞きながら「私の今の気持ちは、誰も解ってくれない。もっともらしい話をするな。今の自分はそれどころではない。」など思っている人はいませんか。
【間をおく】
 なぜ、自分はそう思うのか。
 なぜ、自分は人を信用しないのか。
 なぜ話を聞きたくないのか。
 考えたことはありますか。
 自分の心の中に、本当は「何かを求めている自分、助けを求めている自分」はいませんか。
 繰り返します。今からいろいろな話を紹介しますが、話を聞いたときの自分の感情、時々の自分の感情の変化「気づき」を意識してみてください。その話に共感できるかできないか。
 ここで大切なことは、「自分の想い」を見つめることです。そして、1つでも共感できるような言葉があれば、それでいいと思います。せっかくの時間ですから、何かを感じていただければ幸いです。

No.3 五つのエピソード 

①働く場こそ、晴れ舞台

「働く場こそ、晴れ舞台。それは自分で作り、耕すしかない。」という言葉があります。現場で働いている皆さんに、この言葉を送りたいと思います。
≪別にたまたま仕事がなかったらこの仕事をしているわけだし、長く勤めるつもりもないし…≫
 それでもいいんです。でも皆さんはこの仕事によって賃金をもらっています。つまりプロです。そして今働いている場所が、晴れ舞台なのです。
 プロならば、毎日の晴れ舞台でいい加減な仕事はできません。観客(顧客)に見られている舞台で、いい加減な芝居は出来ません。ぞんざいな作業、気の抜けた行動などをすれば、会社の仲間が大切にしている『美味しい食品作り』という舞台を汚してしまうことになるからです。
 この場所を大切に思っている他の社員に対してはずかしいですよね。失礼です。
 確かに、舞台の主役ではないし、せりふのない通行人の役なのかもしれません。しかし、いつかは主役になりたいと思っている通行人と、何も考えていない通行人とでは、見る人にはわかります。ごまかしは効かないのです。いつかは主役になりたいと思っている通行人は言われなくても、芝居のシナリオを覚えてしまいます。
 そんな人しか、チャンスは来ません。配役の一人が病気かなにかで出られなくなり、代役に抜擢されるのです。せりふも覚えていますから、あわてることはありません。それがプロの通行人です。志の問題です。
 会社ではたった一人のミスが、不良品を作り、品質の低下を招き、会社全体の評価を下げてしまいます。

雑用なんて用はありません。その人が用を雑にするから、雑用になります。


 次のエピソードです。

②「与えるものは与えられる」の法則

 あるアメリカの鉄道会社の社長が、現場の視察に出かけた時の話です。
 ある線路の修繕の現場を視察した時、一人の作業員が近づいてきました。見ると、約10年前、鉄道作業員としていっしょに働いていた友人でした。その友人は、今も作業員をしているようでした。
 その友人は、次のように話しかけてきました。
「君は随分出世したね。君が社長になった時は驚いたよ。10年前は、おたがい50ドルの日給をもらうために働いてたのにね。」
 社長は答えました。
「そうだったのか。君は50ドルをもらうために働いてたのか。私は、10年前も今も、この鉄道会社のために、そして、世の中の人たちに快適な移動や旅をしてもらうために働いてるんだ。」
 50ドルをもらおうと思って働いてた友人は、「もらおう」という意識で働いていたのです。 そこに与える気持ちがなかったのです。
 そして、この社長になった人は、同じ作業員の仕事をしていた時も、鉄道会社のために、世の中のために「与えよう」と思って働いていたのです。
まさに、「与えるものは与えられる」の法則どおり、この社長には高収入や地位が与えられたのです。
≪皆さんは何のために働いていますか。賃金をもらうために働いていませんか。≫

③あるJRの運転手さんの話

 JR山手線は、約1時間で、外回りと内回りを一周するそうですが、ある人がその山手線の運転手さんに「毎日同じ場所をぐるぐる回るだけで、あきませんか?」と質問したそうです。
「とんでもない、時間帯、季節によって乗っている乗客の数も違うし、ブレーキの掛け方、タイミングなど同じ状態のことはありません。私たちはプロとして、安全に安定した運行を心がけなければなりませんから、一瞬たりとも気が抜けないのです。」と山手線の運転手さんは答えられたそうです。
 時刻表と1分も違わず、同じ停車位置に10センチの狂いもなく停車することがいかに難しいか、わかりますか。あきる暇などありません。」
 この話は、後のメインディッシュと関係しています。
 難しいこと難しそうと思わせず、簡単に見せるのがプロです。素人である私たちには、退屈なように見えてしまうのかもしれません。私たちが毎日当たり前のようにバスや電車に乗って通勤して会社にいけるのは、このプロの仕事のおかげなのです。
 このプロ意識は「自分で作り耕す」必要があります。
 先輩社員から話を聞いても、こういう講演で「なるほど」と思っても、自分で仕事に対する誇りがなければ、前向きに取り組もうという気持ちにはなれませんし、目標がなければ心を耕そうとは思いません。
 このプロ意識についてもう少しお話したいと思います。皆さんご存知の松下電器、パナソニックの創業者、松下幸之助さんの話です。これも私の大好きな話です。

④笑顔をつけなはれ

 元TBSアナウンサーに宇井美智子さんと言う人がいる。この人は笑顔の研究をしていて、笑顔をテーマにした講演で、方々から引っ張りだこなのである。それにしても笑顔の研究とは変わっている。どうしてそんな研究を始めたのか、聞いてみた。宇井さんの答えはこうだった。
 ある時、松下電器のCMに出演したのだと言う。その打合せで松下幸之助さんにお会いしたとき、彼女はこう言われたという。
「もっとええ顔しなはれ」
 彼女は、えっ?となった。
 すると松下さんはニコッと笑ってこう言ったという。
「ええ顔すれば、もっと儲かります」

 それがきっかけだった。彼女はええ顔とは何だろう、どういう顔がええ顔なのだろうと考えた。
 またある時、彼女は松下さんが社員にこんな話をしているのを聞いた。
「品質が良くて、優れた機能を備えていて、しかも値段が安い品物を作って売る。これは商売をやって儲けるためには当り前のことです。その点で同業他社に負けないように頑張らなければならない。それも当り前のことです。しかし、商売の究極は品物に人情をつけて売ることです。人情とは親切とか丁寧とかいうことです。品物に人情をつければ、儲かる商売ができます。手持ちの人情がなければ、せめて品物に笑顔をつけなはれ。笑顔に勝る人情はありません。
 ところが研究してみると、笑顔と言うのは単純なようで難しい。ただ笑顔を浮かべればよいというものではない。
 人間の顔の表情というものは微妙なもので、感じのいい笑顔はそれでできるが、人を引きつけるインパクトにもう一つ欠ける。筋肉の配置、弛緩や緊張の具合と形は同じでも、心がこもっているのといないのとでは、同じ笑顔でも相手に与えるインパクトがまるで違うことを彼女は発見した。
心のもち方。
 これはにわかな指導だけではどうにもならない。やはり何と言っても日常の心掛けがものをいう。相手にいい気分になってもらおうという平素からの心掛け、そういう心がこもった笑顔は豊かな情報量を備え、相手に情報を発信し、どんな雄弁にも勝る働きかけを相手にするものだということを、彼女は知るのである。
 自然な感じのいい笑顔は、それだけでは一見、相手からの働きかけを待っている受身の姿勢である。だが、単なる受身ではない。待ちの形をとりながら、情報を発信して相手を惹きつけ、働きかけを引き出す積極性を備えているのだ。
 受身の中に秘められた積極性。笑顔が魅力的なのは、ここにポイントがある。
「ええ顔すれば、もっと儲かるのです。」
 皆さん、笑顔の大切さ、わかりましたか。私は人と話すのが苦手という人がいます。話す必要はないのです。笑顔を相手に見せるだけでいいのです。それは「あなたの存在を認めていますよ」というメッセージです。それが挨拶です。

 松下幸之助の話を皆様の仕事にあてはめて、言葉を変えて言います。
「安心で品質のいい食品を製造し、しかも『美味しい○○』という商品を販売してお客様に満足を提供する。これはプロの食品製造販売業としては当り前のことです。その点で同業他社に負けないように頑張らなければならない。それも当り前のことです。
 しかし、食品作りの究極はその一つひとつの食品に人情をつけて作ることです。人情とは安心とか丁寧とかいうことです。食品に人情をつければ、儲かる商売ができます。手持ちの人情がなければ、せめてその食品に笑顔をつけなはれ。笑顔に勝る人情はありません。
 つまり、現場に一番大切なものは笑顔なのです。
 笑顔のある現場で製造された食品には、笑顔がついています。目には見えないけど、『仕事に対する誠意』というプロの味付けが加わっているのです。そうすれば、『自然の元気をそのままごちそうに変えて食卓に届ける』ことが出来ます。
 ごちそうには笑顔がついています。勘違いしないでください。この「儲かる商売」とは会社が儲かるという意味だけではありません。自分が儲かるのです。
 仕事は、私たちの人生の中で多くの時間を使います。その仕事によって私たちは生活し、生きる意味、やりがいを探しています。だから「晴れ舞台」なのです。
 しかし、それは探すものではなくて、創るものなのです。

 最後の前菜です。またまた、「松下幸之助」さんのお話です。

⑤もの作りはもの作ったらあかん

 まだそれほど電球が普及してなかった時代、電球をつくっている工場で電球を布で磨くだけという仕事があったそうです。
 つまらなさそうに電球磨きをしている従業員に向かって、「君、ええ仕事してるな~」 としみじみといったそうです。
 それを言われた従業員のほうは 、「え!?電球磨きのどこが良い仕事なんやろ、電球磨いてるだけやろ?こんなの誰でもできる仕事やし、もっとすごい仕事、設計とかしてる人いっぱいおるやん」と思ったとか。
「君、ええ仕事してるでぇ~。君が電球磨く。その電球で町の街灯に明かりがつく。その街灯のおかげで、どうしても夜遅くに駅から家にかえらなあかん女の人、いつも怖い思いして帰ってた女の人が安心して家に帰ることができる。いつもおかあちゃんが仕事で帰ってくるのが遅くて、もう暗くなってもうて絵本読んでもらわれへん子供がおる。そんな子供の家に君の磨いた電球一個灯るだけで、その子はおかあちゃんに絵本読んでもらうことができる。 本読んで、勉強してる子供らがおるやろ。 そんな子供らが夜になって暗くなったら字読めなくなって勉強したいのに出来なくなる。
 そこであんたの磨いた電球を付けるんや。そうしたら夜でも明るくなって、子供らは夜でも読みたい本読んで勉強出来るんやで。
  あんたの磨いてるのは電球やない。子供の夢を磨いてるんや。
  もの作りはもの作ったらあかん。その先にある笑顔を作るんや。


 皆さんは、食品製造の現場で毎日、美味しい○○を作るために作業しています。その作業をしながら、こんなことを考えたことはありますか。食卓を囲んで、子供たちが美味しそうにごちそうの○○を食べています。それをうれしそうに眺めているお父さんとお母さんの笑顔。
 皆さんで、一緒に考えてみませんか。これが職場内のQC活動だと思います。皆さんは、『食卓の元気』を作っているのです。つまり、笑顔を作っているのです。

 五つのエピソードを紹介しました。私の言いたいことを理解していただけましたでしょうか。
 では、どうすれば笑顔を作ることが出来るのでしょうか。精神論だけでは、なかなか納得してもらえないと思いますので、話を変えます。
 日常作業と言う退屈なルーティンワーク(同じことの繰り返し)を楽しく乗りきる方法。ティモシー・ガルウェイの『インナーワーク』と言う心理学のテクニックを紹介します。皆様のQC活動に役立つような話、これが本日のメインディッシュです。


No,4 インナーワーク 

≪ティモシー・ガルウェイ(W.Timothy Gallwey)
 1938年サンフランシスコ生まれです。テニスのジュニアで活躍した後ハーバード大学ではテニス部主将になりました。教育学を専攻し、押しつけ教育に疑問を抱き、人間の自然習得能力や集中力に着目した独自の教育法を探りました。これをテニスに応用してスポーツ心理学の原点とされる「インナーワーク」を70年代に確立し、現在では広く企業の人材開発などにも応用されています。≫

 各種のスポーツにおける一般的なコーチはまずお手本を示し、その動作を細かく分析して説明し、生徒にいったん頭で理解させてから実行させます。そしてその欠点をコーチが指摘し、矯正します。その繰り返しがコーチの仕事だと思っています。
 しかし、それを意識すると動作がぎこちなくなり、逆に本来のフォームを忘れてしまうというようなことが起ります。試合中にそれをすれば、集中できなくなりプレーが乱れてしまいます。
≪マニュアルに振り回される、生産現場も同じです。≫
 ガルウェイは、この現象がなぜ起るのかを考えました。そして、実際に相手と戦っている「アウターゲーム」の他に、各選手が自分の心の中で戦っている「インナーゲーム」という存在を見つけたのです。

 試合中、選手は絶えず自分を叱咤激励し、また反省もしています。「ボールから目を離すな」「センターに返せ」と指示したり、「思い切って打てなかったな」と反省をしています。
 ガルウェイは、指示や命令を出している自分自身を「セルフ1」それを聞いて実際に試合をしている自分を「セルフ2」と呼び、あたかも別の固体であるかのように区別しました。
 そして、このセルフ1が発する指示や反省をよく調べてみると、日常的にコーチが選手に発している内容とまったく一緒だったのです。
 セルフ1は常に選手の上位に立ち、支配し、評価しようとしています。そして、その評価は自己否定に発展してしまいます。それは恐れや自己不信から出ています。
 このセルフ1が活発に働いている時は、いいプレーができず、最高のプレーができた時は、このセルフ1は黙っており「無心」になっている時です。
≪上司と部下との関係も、同じようなものかもしれません。≫
 ガルウェイは、「従来のコーチの指導は選手の心の中に言語で表現された雑音(指示や反省)を作り出し、選手が「無心」になることを妨げている」と結論付けました。そして、まったく新しい指導方法を考案しました。

≪紹介します≫

一度もテニスをしたことのない夫人に、ガルウェイは次のようにコーチしました。

①コーチが実際にボールを打って見せるから。そのボールの動きだけ見て、コートにボールがバウンドしたら、「バウンド」、打ったら「ヒット」と声を出す。
 タイミングが合うまで、繰り返す。

②本人が、コーチのいた位置に立ち、助手がボールをなげ、実際に口だけで、コートにボールがバウンドしたら、「バウンド」、打つタイミングで「ヒット」と声を出す。実際はラケットも持たず、手も振らない。

③本人が、実際にラケットを振る。握り方やら、振り方は気にしない。ボールがバウンドしたら、「バウンド」、打つタイミングで「ヒット」と声を出しながら、ラケットを振る。

≪余談ですが、これがすべての仕事の教え方の基本です。「やってみせる。やらしてみせる。指導はできたことを誉めてあげる。」この繰り返しだけです。そうすれば、自分で仕事を覚えていきます。コツは作業のリズムを覚えることです。≫
 すると、彼女のラケットにボールが見事にヒットして、相手のコートに返球しました。初めてのテニスです。本人がビックリしてしまいました。
「こんなに簡単でいいのかしら?」
 しかし、その後続けて失敗しました。
「上手に打とう」としたのが原因で、声のタイミングがずれていました。
「バウンド」、「ヒット」の声を出すことに集中するだけのレッスンで、20分程度の時間しか経過していないのですが、彼女は見事なストロークを覚えてしまったのです。何一つフットワークのことなど教えていないのに、ちゃんと右足を引き、左足を踏み込んでいます。
 本人の意識をリズム練習だけに集中させることで、テニスボールの動きに肉体が調和することを促したのです。
 セルフ1の活動をさせず、その知的部分を除去できれば、人間には誰でも、驚異的な上達の能力が備わっているとしか言いようのないのです。
 感覚は、思考より何十倍も能力があり、計算スピードも驚異的で優秀です。
 その能力を信頼することで、雑念から開放され満足感も味わえます。できなかったことができるようになったという本能的な歓びを感じることができるのです。
 この考え方は、マネジメントにも応用できるということでガルウェイは「インナーワーク」を確立しました。

 アメリカの通信会社大手のAT&T社の電話オペレータの対応改善にこの「インナーワーク」を応用しました。
 ガルウェイが、オペレータの仕事を観察していると、
①ほとんどのオペレータが退屈していて、対応が機械的でした。
②退屈であるが、ストレスは高かった。生産性を高めるために常に監視され、査定されていたからで、事業所の平均対応指数が定期的に張り出されていました。
③管理されていると感じており、指示されたとおりの行動しかできず、どんな行動も許可が必要でした。
≪トイレに行くのも許可が必要だったそうです。≫

 オペレータ自身が職場環境に満足できず、企業内の会話にも参加できないような状況で、どうして利用者を満足させることができるでしょうか。オペレータ各人の内部に、職務に対する不満、管理体制に対する敵意が潜んでいました。それが利用者に対する対応にも出ており、単に機械的なだけでなく苛立ちが口調ににじみ出て、丁寧さ以前のレベルでした。
 ポイントは、手順どおりの作業の繰り返しによる「飽きの克服」であることにガルウェイは気づき、マニュアルどおりに作業しなければならないというセルフ1を除去すれば良いと考えました。
 まず、研修は「自主的」に参加することにしました。上からの押し付けでは、自分の内面を見つめるという作業ができにくいからです。楽しくなければゲームは続けられません。
 そして、職場でのストレスや退屈さを減らし、楽しさを増すような研修をすることが目標になりました。退屈しない方法、ストレスを感じない方法、8時間の就業時間中に楽しみを見つける方法を考えましょう。
≪QCのテーマがこれだったら、楽しいかも知れませんね。≫
 ここで、ガルウェイはインナーワークの知覚練習を導入しました。オペレータが行っている実際の作業そのものに注目したのです。
 単に電話番号を聞かれて答えるだけのやりとりの中にも、利用者のストレスの度合い、急いでいるかどうか、電話の後ろから聞こえてくる物音などいろんな情報が飛び込んできます。
 ガルウェイは、利用者の声を「温かさ」「親しさ」「苛立ち」などの項目別に1から10までの数字で伝えて欲しいと促しました。
「やあ」と呼びかけてくるような男性なら「親しさ=8」、威張った感じの夫人なら3というふうに報告するゲームです。
 次に、オペレータ自身が演技するゲームを導入しました。声によって、さまざまに異なった性格を表現できるかということです。
 この二つを組み合わせることで面白いゲームが出来上がりました。
 オペレータがイヤホンから流れてくる利用者の声を聞いて、ストレスレベル9と感じ取る。彼女はレベル9の「温かさ」をこめて対応してみる。すると「さよなら」を言うときは、利用者の声色からはかなりストレスの兆候が消えていました。
 異なる声でさまざまな個性を表現してみると、それが利用者の心理に大きな影響を与えるだけでなく、自分自身も影響されることがオペレータにも分かってきます。 
 自分の声が自分に影響するのです。
 この知覚練習で、オペレータ自身のストレスが大きく減少しました。ゲームですから楽しく、個人の自由裁量で実際の業務に使い始め、報告する必要もありません。
 結果、外部からモニターされた「対応指数」が期待以上に向上し、関係者を驚かせました。誰からも強制されたわけでもなく、自主的に行ったことですから、オペレータ自身に内側から大きな変化を起こすことができたのです。本人の意識次第で、本人の成長と発展が努力せずにできたのでした。
 管理職は疎外感を味わうことになってしまいました。自主性によっておこなわれたもので、「指数が上がったのは、私の指導によるものだ」という手柄を上に報告できなかったからです。

 この話には、後日談があります。
「企業風土」「体質」=社風がこのセルフ2の自由な活動を抑制しようという力は巨大であなどれません。
 この「インナーワーク・オブ・オペレーション」を導入した企業のいくつかは、従業員にインナーワークを強要し、間違いなく効果を発揮させるために監督官まで配置しました。 むろんプログラムの魔法は消えて、応対の向上は実現しませんでした。 彼らは結果が出なかったことを格好の理由としてインナーワークプログラムを喜んで廃止しました。
 部下を管理したいという欲求は、そう簡単には克服できません。


No.5 楽しく仕事をするために 

 この考え方は、どんな職場でも活用することが出来ます。指示命令ではなく、楽しさがキーワードです。皆様の活動にご利用ください。

 朝、会社に来てみると、上司が何故かしかめっ面です。
“おっ、ストレス指数9だな。それじゃ、温かさ指数9で挨拶しよう。”
「おはようございます。」←心で次のように話します。
“課長、元気出してくださいね。”相手にプラスのエネルギーを与えるのです。
≪「与えるものは与えられる」の法則を使います。≫
 課長は、「あっ、おはよう。」←少しずつストレスが減少してゆきます。
≪そして、自分の声が自分に影響します。≫

 前菜のエピソードで述べたJRの運転手さんは、定時運行と同じ場所に10cmの狂いもなく電車を止めることに集中することで、自らの飽きを克服しているのです。
 その他、いろいろな事例がありますが、話し出すと三時間ほどかかります。

 ちょっと横道にそれますが、声は大切ですよ。 声を変えれば、印象と評価が変わります。実は、この印象と評価は同義語です。印象が評価を決め、評価が印象になります。 だから、「声」は仕事でも大きく影響しています。だから、挨拶は大切なのです。
 あの人に合うと元気になると言われる声を持つ人がいます。さわやかな挨拶だったり、力強い声だったり、理屈抜きに人にパワーを与えています。そういう存在感のある人。そういう人は間違いなく、いろいろな場面で得をしています。
 「仕事」でも「人間関係」でも好印象から発進するので、ほとんどの場合成功します。そして、好印象は相手の自分に対する評価を高め、そのことによってまた自分自身はやる気になり、努力するという好循環になります。
 どうせ挨拶するなら、やさしい声を使ってください。人は「ふれあい」を求めるために生きています。共感の挨拶をすることで、職場の雰囲気も良くなります。
 まとめます。

楽しく仕事をするためにはどうしたらよいか

 実際には、作業でそこまで要求されていないけれども、何か細かいこと、ちょっとしたことに注意を注ぎこむのです。そして、その対象は自分で設定します。
  ルーティン・ワークの場合、生産現場は、この方法が有効です。
→ゲーム感覚で楽しむ。遊び心を持つのです。
≪いろいろアイデアが浮かんできます。≫
『・・・にもかかわらず笑顔で仕事する』ことは、誰でもすぐに実行可能です。
 自分でそう、きめればいいのです。
 あの人はグチばかりいいながら仕事をしている。・・・にもかかわらず、私は笑顔で仕事する。
今日は気分が悪い。・・・にもかかわらず、私は笑顔で仕事する。

紹介した話に共通しているのは、人間はその内面的な知覚、感情によって行動するという心理学の考え方です。 組織を構成しているのは個人であり、一人ひとりの個人の能力が、その会社の品質を支えています。
鎖につながれている一つひとつの部品、その一ヶ所でも欠陥があるとその部分で鎖はチギレテしまいます。鎖として役に立ちません。会社の一社員の不祥事で、会社全体が信用をなくしてしまうのと同じことです。
物を作る企業では、その物を作る人間の品質が商品の品質です。経営マネジメントとは、その最低部分の品質を向上させることだと思います。
どんなに経営者が優秀でも、社員一人ひとりの意識付けができなければ品質は保てないのです。そして、それぞれの品質が向上すれば、指示・命令といったマネジメントは必要なくなるかもしれないのです。
一人ひとりの内面的な能力を向上させることを「インナーマネジメント」と言います。現在、仲間と研究会を作り、この考え方の啓蒙活動をしています。
・・・にもかかわらず、笑顔で仕事する。
というテーマでお話ししてまいりました。
「つらい時も楽しく取り組めるよう自分の態度を選ぶ」という意味です。
→ 笑顔を大切にしよう
→ 自分で気持ちを選んでみましょう
ということです。
「自分は楽しく仕事をする」という姿勢で仕事をする。
その仕事の結果とか成果は気にしない。


 もちろん周囲に嫌なことが起きたり、組織が官僚的で動かなかったり、自分ではどうすることもできない原因が存在することは確かですが、仕事を楽しむと決意することで、何かを得ることができると確信しています。
 形のあるお金や財産などの「物体」は有限ですが、「感動と感謝」「仲間の存在」は無限の財産です。せっかく、仕事をしているのですから、楽しく仕事をしてください。
 「楽しい」という感情、感動は、物で得ることはできません。そして、「感動」は音楽や絵画のように、思い出、体験として永遠の命(価値観)を持つことができます。
 ぜひ、考えていただければと思います。最後にいい言葉を紹介します。言葉のデザートです。ぜひ家庭でも職場でも使ってみてください。


No.6 いい言葉 

人を幸福にする言葉があります。
「良かったね。」「うれしいね。」「楽しいね。」「幸せだなあ。」 「気持ちいいなあ。」

人を成功に導く言葉があります。
「運がいい。」「ついてる。」「ラッキー。」「うまくいくよ。」 「ありがとうございます。」

人の潜在能力を引き出す言葉があります。
「すごいね。」「さすが、君だね。」「すばらしい。」

人の心と体をゆっくりとリラックスさせる言葉があります。
「ゆっくりいこうよ。」「ゆったりしようよ。」「やさしいね。」 「柔らかく。柔らかく。」「ゆたかだね。」「休もうよ。」

 そして、すべてを含んだ魔法の言葉です。

「ありがとう。」

あるお母さんの話です。

 今日は散々なことがいろいろあって、子供にも長々お小言しました。 子供がゴメンナサイといっても私の気分は全然かわらないのです。 ちっとも心に入ってこない。
 そこでふと思いついて、「有難う御座位ます」て言ってみて。
 こどもが???な顔をして、「ありがとう、ございます」。
 すると、不思議にもにっこりとできたのであります!!
 もっと言ってよ。と子供にお願いしてしまいました。そうしてやっと心のもやもやが晴れたのでした。これぞ言霊!すごーーい。

 どの言葉を使うかはあなた次第です。

『自然の元気をそのままごちそうに変えて食卓に届けている』皆さんに心からの敬意と感謝をこめて、お礼の言葉といたします。本日は、本当にありがとうございました。

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