Inner management-Colum02(コラム)

キャリア形成のために その二

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2009/05/05 初版


Colum(計画された偶然理論)

「Planned Happenstance Theory」


 人生なんて思い通り行かないものです。
 でも、人生を前向きに楽しんで生きていくと「偶然」という充実の種に出会うといいます。
 では、その「偶然」の種はどうしたら出会えるのでしょうか?
 その内容は、
  • 職業生活(あるいは人生も)は、実は「たまたま」や「偶然」の出来事や出会いなどによって決まっていくことが多い。
  • (数百人の米国ビジネスパーソンへの調査結果によると8割。)
  • しかし、その「たまたま」や「偶然」は、本人がそれとは意識しないで行っていたことによって生じている。
  • ・その偶発的な出来事を、主体性や努力によって最大限に活用し、力に換えることができる。
    ・偶発的な出来事を意図的に生み出すように、積極的に行動することでキャリアを創造する機会を生み出すことができる。
    (偶発的に見えても結果的には計画的に起きたように必然化できる。)
     というものです。

     世の中には職業生活にしろ、人生そのものを豊かに送っている人たちが大勢います。
     多くの人は自分の人生を計画していなかったでしょうし、計画したにしても計画どおりでなかった人もたくさんいることでしょう。
     キャリアを意図的に作らなくとも、偶然に起こる出来事を歓迎し、それを柔軟に受け入れることで結果的にキャリアができたというのがキャリア開発の本音かもしれないのです。
     その「出会い」だって、まずは自分から行動を起こさないことには始まりません。
    普段から人との出会いを大事にするとか、こちらから会いたいと思う人に会いに行くというのも大事です。

     あとは「プランはないけど夢がある」というのもPlanned Happenstanceな人びとの共通点です。
     夢に一番近いと思う人に会ってみたいと思う、そして実際に会いに行く……。
     叶えたい夢、好きなコトだったら、行動できるし、熱中できるのではないでしょうか。
     それでイイのです。
     その「好き」という感情も、自分の声に耳を傾けててないとわからなくなりがちですから。
    とにかく物事の判断基準を常に自分においておけばいいんです。
    そうやって「好き」からおこしたアクションに対して、もし挫折や失敗があったら、その時にどう向き合うか考える。
     そしてまた、そこで自分の判断基準に素直に従って、次の行動を起こしてみる。

     直感を信じる、インスピレーションを信じるということを心掛けてみてください。
    ―― 答えは自分の中にしかない……。
    偶然の出会いのために
  • 1 広く好奇心を持ちましょう。
  • 2 自分の考えや価値観に根底の部分ではこだわりましょう。持続性。
  • 3 自分の計画にとらわれず、予想外のことでも積極的に対応しましょう。柔軟性
  • 4 どんな結果になろうとも、楽天的にとらえましょう。
  • 5 リスクを恐れず、目先のリターンをあまり考えないようにしましょう。

  •  この理論は、目的を決め綿密な計画を立てて実施していくことが「キャリア開発」だという「合理的意思決定モデルとしてのキャリア論」=「計画的決定論的キャリア論」に対するアンチテーゼと言えます。
     まず、目標を設定することが大切だという「計画的決定論的キャリア論」を支持する方々にとっては、偶発性は自分の計画を乱す悪であり排除することで自分のキャリア形成をスムーズにできると思いがちですが、ここでは偶発性は決して『敵』ではないのです。
     このようなことが実際思いあたる方は、けっこう多いのではないでしょうか。

    「すべての成功は一つのアイデアから始まった。」

     直感は一見不合理のような形であなたをガイドします。

    「思いつき」と「偶然の出来事」で目標は変化し、当初の計画通りの結果になるものはないのです。
     「Planned Happenstance Theory」は、それまで自分に適した職業を見つけることに重点を置いていたキャリア・カウンセラーの概念を根本から覆すものです。
     いくら適性や志向を考え抜いて仕事を選んだとしても、さまざまな経験を積んでいくうちに新たな好奇心が湧いてきたり、ある人との出会いがきっかけで予想もしなかった道を歩むことになったりするものです。
     ですから、「自分のキャリアについて考えることはいいことだが、はっきりしないからといって気に病む必要はない」と思います。
     「天職」「適職」を探そうとすることを否定するつもりはありませんが、それが見つからないといってその方の今やっている仕事に価値がない訳では決してないと思います。
     この考え方は「フロー理論」と同じように、自分の「内発的動機」によって、その人のキャリアが形成されていくというものです。
     理論ではうまく説明できませんが、私自身は体験的に納得することができます。
     今考えれば、自分の意思というよりも偶然の出会いによって、自分の人生が変化してきたからです。
    「偶然ではなく、必然だった」と確信しています。
     大切なことは、理性ではなく、本能(無意識)を信じるのです。
     理性的、論理的で合理的な発想は、ときに物事をスムーズに進める妨げになります。
     この本能的なもの、感覚的なものを理論的に体系的に説明することは本当に難しく、宗教的な精神論になってしまうようでもあり、テクニックだけのコーチングになってしまうかも知れません。
     言葉だけで説明することが本当に難しく、そのことにチャレンジしようとしている私は無謀なのかもしれません。
     しかし、私自身も結果とか評判とか余計なものを考えず、心の感じるままに述べてみたいと思います。


    Colum(仕事は楽しいかね)

    ディルドーテン「仕事は楽しいかね?」より

     成功のための戦略として「目標の設定」という事が言われます。
     しかし、どんな仕事が大好きかわからないし、好きであっても上手にできるようになるかもわかりません。
     子供の時は「どんな大人になりたいかもわからない」というのが本当ではないでしょうか。
    「今から五年後にどうなりたいか」なんて質問は、大嫌いです。
    「目標を設定して、それに向かって努力しなさい」と言われても、人生はそんなに規則正しいものではないし、規則から離れたところでいろいろな教訓を与えてくれるものでもあります。
    「大好きな仕事をしていれば、人は何時間働いても苦にはならない。情熱があれば解決する。」とも言われますが、大好きだったはずの仕事でもいやになる時もあります。
    「ずっとしたいと思っていた仕事についたのに、なぜか幸せを感じない」ということもありえます。
    「毎日」は変わっていくものですから、考えも変わっていきます。その時その時で目標も変わるのが当たり前ではないでしょうか。
    「人生は進化である。そして進化の素晴らしいところは、最終的などこに行き着くかまったくわからないところだ。」という言葉がありました。

    リーバイス・ストラウスは、10代でアメリカにやってきて、ケンタッキーで行商人として働いていました。
     ある日、カルフォルニアで金の話を耳にすると、炭鉱の鉱夫相手に必需品を売って一儲けしようと、サンフランシスコ行きの船にいろいろな商品を持ち込み、一緒に旅をしている人たちに売ってまわりました。
     計画は大成功であったが、テント用の汚い布が売れ残ってしまいした。
     そして、サンフランシスコに着くと、もう一度その布を売ろうとしましたが、やっぱりダメでした。
     けれど、市場に出かけた彼は、品薄になっている商品の一つがズボンであることに気がついたのです。
     しかも採掘の仕事には丈夫なズボンが欠かせない。
     そこで、リーバイス・ストラウスはサンフランシスコの仕立屋を雇って、テントの布を使った「ジーンズ」を作り、大儲けしました。


    「すべての成功は一つのアイデアから始まった。」
     直感は一見不合理のような形であなたをガイドします。

     紹介した本の中に成功の秘訣が書かれています。
     もし、神様が信じられないようなアイデアをくれるとして、あなたはそれにふさわしいですか。
     もし、あなたが船旅を終えたばかりで、荷物と売れ残りのテントの布を持っていて、サンフランシスコの町を歩いている時、もちろん金を探しにいきたいと思いながら歩いている時、炭鉱の鉱夫に「ズボンはないか」と尋ねられたらあなたはなんと答えますか。
     あなたはイライラして「ないよ、ズボンなんか売っていない」と答えますよね。
     その瞬間、素晴らしいアイデアが通り過ぎてしまいました。
     つまり、売れ残ったテントの布を使って何をすべきかを考え続けてこそ、リーバイスのジーンズを思いつくことができます。
     それでは、成功のアイデアにめぐり合うためにはどうしたらよいでしょうか。
     そのためには、「好奇心を旺盛にすること、できることはどんどん変えてみること」というポジティブシンキングが必要です。
     成功するというのは、「右にならえ」をしないことです。
     小説を研究しても小説家にはなれないし、成功を研究しても成功にはなりません。
     成功するということは、他人よりも上位の地位に付きたいと思っているのですが、これを他人と同じような人間になることで達成したいと考えていては、不可能です。
     問題は、平均以上の人があまりにも多すぎでみんな普通になってしまっていますから。
     日々の革新を心がければ、十回中9回も失敗することはありません。
     十回中8回ですみます。
     十回やって2回成功すれば悪くないと考えましょう。

     ある事柄が完璧だと決め込んだら、その事柄はそれ以上良くなりません。
     その完璧以上の素晴らしさにチャレンジして失敗しても、完璧以下にはならないのだから、試してみる価値はあるのではないでしょうか。


    Colum(インナーワーク)

    ティモシー・ガルウェイ(W.Timothy Gallwey)について
     1938年サンフランシスコ生まれ。ジュニアで活躍した後ハーバード大学ではテニス部主将に。教育学を専攻、押しつけ教育に疑問を抱き、人間の自然習得能力や集中力に着目した独自の教育法を探った。
     これをテニスに応用してスポーツ心理学の原点とされる「インナーワーク」を70年代に確立し、現在では広く企業の人材開発などにも応用されている。

     各種のスポーツにおける一般的なコーチはまずお手本を示し、その動作を細かく分析して説明し、生徒にいったん頭で理解させてから実行させます。
     そしてその欠点をコーチが指摘し、矯正します。
     その繰り返しがコーチの仕事だと思っています。
     しかし、それを意識すると動作がぎこちなくなり、逆に本来のフォームを忘れてしまうというようなことが起ります。
     試合中にそれをすれば、集中できなくなりプレーが乱れてしまいます。

    ≪私自身、今でも覚えているのですが、卓球の試合で私が一セット取った時、味方の選手に(その選手は補欠で試合にはでれない。私に好意を持っていない。)
    「まぐれで勝ったね」といわれたことがあります。
    その言葉に腹が立ち、プレーに集中できなくなり、結局負けてしまいました。≫

     ガルウェイは、この現象がなぜ起るのかを考えました。そして、実際に相手と戦っている「アウターゲーム」の他に、各選手が自分の心の中で戦っている「インナーゲーム」という存在を見つけたのです。
     試合中、選手は絶えず自分を叱咤激励し、また反省もしています。
    「ボールから目を離すな」「センターに返せ」と指示したり、「思い切って打てなかったな」と反省をしています。
     ガルウェイは、指示や命令を出している自分自身を「セルフ1」それを聞いて実際に試合をしている自分を「セルフ2」と呼び、あたかも別の固体であるかのように区別しました。
     そして、このセルフ1が発する指示や反省をよく調べてみると、日常的にコーチが選手に発している内容とまったく一緒だったのです。
     セルフ1は常に選手の上位に立ち、支配し、評価しようとしています。
     そして、その評価は自己否定に発展してしまいます。
     それは恐れや自己不信から出ています。

     このセルフ1が活発に働いている時は、いいプレーができず、最高のプレーができた時は、このセルフ1は黙っており「無心」になっている時です。
     ガルウェイは、「従来のコーチの指導は選手の心の中に言語で表現された雑音(指示や反省)を作り出し、選手が「無心」になることを妨げている」と結論付けました。
     そして、まったく新しい指導方法を考案しました。

     一度もテニスをしたことのない夫人に、ガルウェイは次のようにコーチしました。
    ① コーチが実際にボールを打って見せるから。そのボールの動きだけ見て、コートにボールがバウンドしたら、「バウンド」、打ったら「ヒット」と声を出す。
     タイミングが合うまで、繰り返す。

    ② 本人が、コーチのいた位置に立ち、助手がボールをなげ、実際に口だけで、コートにボールがバウンドしたら、「バウンド」、打つタイミングで「ヒット」と声を出す。実際はラケットも持たず、手も振らない。

    ③ 本人が、実際にラケットを振る。握り方やら、振り方は気にしない。ボールがバウンドしたら、「バウンド」、打つタイミングで「ヒット」と声を出しながら、ラケットを振る。

     すると、彼女のラケットにボールが見事にヒットして、相手のコートに返球しました。 初めてのテニスです。
     本人がビックリしてしまいました。

    「こんなに簡単でいいのかしら?」
     しかし、その後続けて失敗しました。
    「上手に打とう」としたのが原因で、声のタイミングがずれていました。

    「バウンド」、「ヒット」の声を出すことに集中するだけのレッスンで、20分程度の時間しか経過していないのですが、彼女は見事なストロークを覚えてしまったのです。

     何一つフットワークのことなど教えていないのに、ちゃんと右足を引き、左足を踏み込んでいます、ストロークのスの字も教えていないのに、フォローはちゃんと肩の高さでフィニッシュしています。

     ボールがバウンドしたら、「バウンド」、打つタイミングで「ヒット」と声を出すことに全身で集中することで、テニスボールがどう動くかを無意識に知覚させました。

     コーチの動作を見ることも貴重なデータとして、知覚されたはずです。

     その後、何回か「力む」状態になりましたが、そのたびに「うまく打つ練習ではない。バウンド、ヒットの声を出すだけの練習だ」とガルウェイは強調しました。

     本人の意識をリズム練習だけに集中させることで、テニスボールの動きに肉体が調和することを促したのです。

     セルフ1の活動をさせず、その知的部分を除去できれば、人間には誰でも、驚異的な上達の能力が備わっているとしか言いようのないのです。

     感覚は、思考より何十倍も能力があり、計算スピードも驚異的で優秀です。
     その能力を信頼することで、雑念から開放され、満足感も味わえます。
     できなかったことができるようになったという本能的な歓びを感じることができるのです。

    ≪余談≫
     会議の効率化について質問された時、「自分たちの会議を観察して、特に感じていることはないですか。」と質問すると次のような観察結果が返ってきました。
    ① 議題からそれてしまう
    ② 会議の始まりも予定どおりにならない
    ③ 一部の人ばかり発言している

     そこで、ある人に「会議の議題からそれていないか」を観察して欲しいと頼んだ。 話がわき道にそれたことに気がついたら、そのたびに手を上げてほしい。 けれどそれ以上のことはしないで欲しい。

     もう一人には、会議の始まる時間と終わりの時間を観察してもらった。
     三人目には、一人ひとりの発言時間の合計と頻度を記録してもらった。

     こうしろと具体的な改善策は一切提示しなかった。
     その結果、チーム全体がこれらの要素に対する意識を高める結果になり、それだけで上記の問題は解決してしまった。

     これがインナーワークテクニックです。

    インナーワークの続きです。

    Colum(知覚に集中する)


     感覚は、思考より何十倍も能力があり、計算スピードも驚異的で優秀です。その能力を信頼することで、雑念から開放され、満足感も味わえます。できなかったことができるようになったという本能的な歓びを感じることができるのです。

     この考え方は、マネジメントにも応用できるということでガルウェイは「インナーワーク」を確立しました。

     AT&T社の電話オペレータの対応改善にこの「インナーワーク」を応用しました。
     アメリカの通信会社大手のAT&T社では、対応の良し悪し、正確さ、生産性(スピード、顧客一人に対する対応時間)を「対応指数」としてオペレータごとにランク付けしていました。
     これを向上して欲しいとの依頼でした。
     ただし、顧客満足度を上げることで通話時間が長くなり、生産性が落ちるのだけは困るということでした。

     ガルウェイが、オペレータの仕事を観察していると、
    ① ほとんどのオペレータが退屈していて、対応が機械的だった。
    ② 退屈であるが、ストレスは高かった。生産性を高めるために常に監視され、査定されていたからで、事業所の平均対応指数が定期的に張り出されていた。
    ③ 管理されていると感じており、指示されたとおりの行動しかできず、どんな行動も許可が必要であった。

     オペレータ自身が職場環境に満足できず、企業内の会話にも参加できないような状況でどうして、利用者を満足させることができるでしょうか。
     オペレータ各人の内部に、職務に対する不満、管理体制に対する敵意が潜んでいました。
     それが利用者に対する対応にも出ており、単に機械的なだけでなく苛立ちが口調ににじみ出て、丁寧さ以前のレベルでした。

     キーポイントは、手順どおりの作業の繰り返しによる「飽きの克服」であることにガルウェイは気づき、マニュアルどおりに作業しなければならないというセルフ1を除去すれば良いと考えました。

     まず、研修は「自主的」に参加することにしました。
     上からの押し付けでは、自分の内面を見つめるという作業ができにくいからです。楽しくなければゲームは続けられません。
     そして、職場でのストレスや退屈さを減らし、楽しさを増すような研修をすることが目標になりました。
    「退屈しない方法、ストレスを感じない方法、8時間の就業時間中に楽しみを見つける方法を考えましょう。」

     ここで、ガルウェイはインナーワークの知覚練習を導入しました。
     オペレータが行っている実際の作業そのものに注目したのです。

     単に電話番号を聞かれて答えるだけのやりとりの中にも、利用者のストレスの度合い、急いでいるかどうか、電話の後ろから聞こえてくる物音などいろんな情報が飛び込んできます。 ガルウェイは、利用者の声を「温かさ」「親しさ」「苛立ち」などの項目別に1から10までの数字で伝えて欲しいと促しました。
    「やあ」と呼びかけてくるような男性なら「親しさ=8」、威張った感じの夫人なら3というふうに報告するゲームです。
     次に、オペレータ自身が演技するゲームを導入しました。
     声によって、さまざまに異なった性格を表現できるかということです。
     この二つを組み合わせることで面白いゲームが出来上がりました。

     オペレータがイヤホンから流れてくる利用者の声を聞いて、ストレスレベル9と感じ取る。
     彼女はレベル9の「温かさ」をこめて対応してみる。
     すると「さよなら」を言うときは、利用者の声色からはかなりストレスの兆候が消えていました。

     異なる声でさまざまな個性を表現してみると、それが利用者の心理に大きな影響を与えるだけでなく、自分自身も影響されることがオペレータにも分かってきます。

     自分の声が自分に影響するのです。

     この知覚練習で、オペレータ自身のストレスが大きく減少しました。
     ゲームですから楽しく、個人の自由裁量で実際の業務に使い始め、報告する必要もありません。
     結果、外部からモニターされた「対応指数」が期待以上に向上し、関係者を驚かせました。
     誰からも強制されたわけでもなく、自主的に行ったことですから、オペレータ自身に内側から大きな変化を起こすことができたのです。
     本人の意識次第で、本人の成長と発展が努力せずにできたのでした。

     管理職は疎外感を味わうことになってしまいました。
     自主性によっておこなわれたもので、「指数が上がったのは、私の指導によるものだ」という手柄を上に報告できなかったからです。

     この話には、後日談があります。
    「企業風土」「体質」=社風がこのセルフ2の自由な活動を抑制しようという力は巨大であなどれません。
     この「インナーワーク・オブ・オペレーション」を導入した企業のいくつかは、従業員にインナーワークを強要し、間違いなく効果を発揮させるために監督官まで配置しました。
     むろんプログラムの魔法は消えて、応対の向上は実現しませんでした。
     彼らは結果が出なかったことを格好の理由としてインナーワークプログラムを喜んで廃止しました。
     部下を管理したいという欲求は、そう簡単には克服できません。

    インナーワークのまとめです。

    Colum(自我意識を消す)

     以下、ガルウェイの言葉より。
     人が何かに夢中になれて、一種の満足感を味わえた時は、このセルフ2と一体化したときだ。
     セルフ2が集中しはじめると、まるで魔法のようなことが起きる。体が何の努力もなしに自分から動き始め、自我意識がどこかに消えてしまう。

     自己評価もない。
     不安や不信からくる過剰コントロールもない。
     この種の集中が起きているときは、心配や退屈も感じない。


     言葉で説明するのは難しいが、心はシンプルな状態で、奥底の歓びを感じ、平凡な単純作業の最中でも純粋な驚きや想像を体験することがある。快く落ち着けるリズムが生まれ、急速に仕事が進むのもこういう状態の時だ。

     心理学者のミハイ・チクセントミハイが唱えたフロー理論と同じような考え方です。
     そのポイントは
    1. セルフ1が評価し、判断し、批判しようとすることを防ぐ。そのために、セルフ1の働きを、客観的でなんら価値判断を伴わない観察に集中させる。感覚、知覚を大切にする。「温かさ」「親しさ」「いらだち」等どう感じるかを考える。

    2. セルフ1がさかんに指示を出しコントロールするのを防ぎ、自らの内側の「選択」に任せる。つまり、自主選択に任せる。

    3. セルフ1が不信感と不安感でセルフ2に接するのを防ぎ、内なるセルフ2を全面的に「信頼」する。
     三つの要素、「知覚」「選択」「信頼」の原理は簡単ですが、実行するのは容易ではありません。
     一般にマネジメントとは計画を立案し、指示と命令で集団をコントロールするのが職務だと信じられています。
     ガルウェイはそれが間違いだと言っています。
     上から押し付けることでセルフ1が活性化してしまい、部下は本来の能力を発揮できなくなってしまうと言うのです。

     紹介した理論に共通しているのは、人間はその内面的な知覚、感情によって行動するのであり、人生はその内面的な成長が目的であるという考え方です。
     組織を構成しているのは個人であり、一人ひとりの個人の能力が、その会社の品質を支えています。
     鎖につながれている一つひとつの部品、その一ヶ所でも欠陥があるとその部分で鎖はチギレテしまいます。鎖として役に立ちません。会社の一社員の不祥事で、会社全体が信用をなくしてしまうのと同じことです。

     物を作る企業では、その物を作る人間の品質が商品の品質です。
     経営マネジメントとは、その最低部分の品質を向上させることだと思います。

     どんなに経営者が優秀でも、社員一人ひとりの意識付けができなければ品質は保てないのです。そして、それぞれの品質が向上すれば、指示・命令といったマネジメントは必要なくなるかもしれないのです。
     一人ひとりの内面的な能力を向上させることをが「インナーマネジメント」です。


    Colum(変化を嫌う)

     企業風土という言葉があります。
     確かにあります。
     言葉で説明することは難しいですが、長年にわたって気づき上げられてきたもので、企業特有の倫理観や内部規律までも含んだ文化と言えます。
     これが、個人に与える影響は予想以上に大きいのです。
     これを変えることは本当に難しいと思います。以下の理由が考えられます。

    ①変化を起こさなければならない立場にある人たちは、自分自身がまず変わるという必要性を回避する傾向が強い。この人間にとっての変化とは、「我々」が「彼ら」にやらせることであり、学習は「彼ら」がすべきことだと勘違いしている。
     まず、自分が変わる。自分が変われば自分の周りにいる人々が変わり、周りが変われば、組織が変わる。

    ②変化への抵抗は、自分自身に直接関わる身近な特定の変化ではなく、変化そのものに向けられることが多い。人は変化を嫌う。
     企業における変化は、通常は強制と評価によって推進されがちです。基準となるモデルがあり、このマニュアルに従って、「これをして、これをしてはいけない」と指示されます。
     これは結局効率が悪く、うまくいかないことが多いのです。
     過去の成功体験、経験も変化を阻害します。
    「今までこれでよかったのだから」と新しい技術を素直に評価しません。

    ≪追記、私の好きな作家、司馬遼太郎の「坂の上の雲」に次のような一節があります。 秋山真之がアメリカ留学から帰ってきて、親友の正岡子規に語る場面です。≫

     真之は、渡米中からおもいつづけていたことを、子規に話した。
    「どうせ、あしの思うことは海軍のことじゃが。それとおもいあわせながらいま升サンの書きものをよんでいて、きもにこたえるものがあった。升サンは、俳句と短歌というものの既成概念をひっくりかえそうとしている。あしも、それを考えている。」

    「海軍をひっくり」

    「いや、概念をじゃな。たとえば軍艦というものはいちど遠洋航海に出て帰ってくると、船底にかきがらがいっぱいついて船あしがうんとおちる。人間もおなじで、経験は必要じゃが、経験によって増える知恵とおなじ分量だけのかきがらが頭につく。知恵だけを採ってかきがらを捨てるということは人間にとって大切なことじゃが、老人になればなるほどこれができぬ」

    (なにを言いだすのか)
    と、子規は見当がつかぬままに、うれしそうに聴いている。

    「人間だけではない。国も古びる、海軍も古びる。かきがらだらけになる。日本の海軍は列強の海軍にくらべると、お話にならぬほどに若いが、それでも建設されて三十年であり、その間、近代戦を一度経験し、その大経験のおかげで知恵もついたが、しかしかきがらもついた」

    「そげなものか」

    「山本権兵衛という海軍省の大番頭は、かきがらというものを知っている。日清戦争をはじめるにあたって、戊辰以来の元勲的な海軍幹部のほとんどを首切ってしまった。この大整理はかきがら落しじゃ。正規の海軍兵学校出の士官をそろえて黄海へ押し出した。おかげて日本海軍の船あしは機敏で、かきがらだらけの清国艦隊をどんどん沈めた。」

    「なるほど」

    「かきがらは人事だけではない。あしは作戦屋で軍政には興味をもたぬけん、人事のことは言わぬ。あしの言いたいのは、作戦じゃ。作戦のもとになる海軍軍人のあたまじゃ」

    「古いのか」

    「古今集ほど古くなくても、すぐふるくなる。もう海軍とはこう、艦隊とはこう、作戦とはこう、という固定(かき)観念(がら)がついている。おそろしいのは固定観念そのものではなく、固定観念がついているとも知らず平気で司令室や館長室のやわらかいイスにどっかとすわりこんでいることじゃ」

     マネジメントの固定概念を変えることが「インナーマネジメント」のテーマです。


    Colum(フィッシュ哲学)


     アメリカ、シアトルのパイプ・プレイス魚市場で生まれた、快適な職場環境作りをするための「四つの心がけ」を紹介します。魚市場で働く従業員が、その単調な仕事を楽しく取り組もうと始めたもので、ごく平易な理論です。

    「遊び心を忘れない」
    「客を楽しませる」
    「客に注意を向ける」
    「つらい時も楽しく取り組めるよう自分の態度を選ぶ」

    原文は、
    Play――自ら仕事を楽しみ、
    Make Their Day――お客様を喜ばせ、
    Be There――常にお客様と向き合う、
    Choose Your Attitude――つらい仕事だって楽しくすると決意する。
    です。

     商品を買う買わないに関わらず、思わず笑っちゃうような会話でお客様を喜ばせるのです。
     店の前を通りかかった人に「いらっしゃい!」と注意を引く声をかける。通行人が顔を向けると、口を開けた大きな魚がパクパクと口を動かし、飛びかかって来る。びっくりする!
     もちろん生きているはずがない、店員が手じかけであたかも生きているように動かすのです。
     貝の注文をもらうと、ポリ袋に貝をすくって入れ、「からす貝! モンタナ行き!」と店員が叫び、中のカウンターに向かって投げる!
     カウンターからはフィッシュキャッチの名人ジャスティンさんが「からす貝、モンタナ行き!」と復唱し、飛んでくる貝の入った袋をつかむ!
     これが、魚になると、猛烈な勢いで魚を水平に投げます。

     ストライクボールのように、カウンターのキャッチャー名人が用意した包み紙毎に見事に受け取ります。すべて復唱し、投げてくる数を間違いなくキャッチします。
     これを見て、お客様の中から一人の婦人が「私にキャッチさせて!」 とカウンターに入ってきます。
     キャッチャー名人がエプロンを婦人につけてやると開始。
     婦人は包み紙を持って身構えた瞬間にロケット弾のように魚がストレートで飛んでくる。 婦人の包み紙をはね飛ばして床にころがる。

     これが2回つづき、キャッチャーに失敗すると、すかさず、「退場!」と店員の誰からか声が飛んできます。
     店のパフォーマンスは店員もお客も一緒になって行っているのです。魚の切り身を試食していた人たちも笑い転げて、魚を買って帰るという寸法です。

    「カニ2杯!」
     活きよいよく大きなカニ1匹が空中をカウンターに向かって飛ぶ、「カニ2杯」とカウンターから復唱があって、見事に連続してキャッチします。
     魚さばきの名人さんはカウンター内で、魚の腹わたを除く、それを受け取って包む店員は魚に人工呼吸をほどこすといったパフォーマンス。
     店のオーナーは、店員にも嫌がられる小うるさい親父でしたが、仕事の中に遊びを取り入れて成功しました。
     彼は言います、「エネルギー、情熱、楽しさ」この3つが大事だと。
     そして、店の哲学(理念)は、次の4つです。

    1つ目の哲学は「遊び心を忘れない」。
    お買いあげ頂いた商品の魚を投げるのは不謹慎のようですが、魚は自分たちの副次的な物で、お客様と対面することが大事なのです。

     Fishの2つ目の哲学は、「お客さまを楽しませること」。
     たとえお客さまが魚を買わなくてもよい。お客さまの気持ちを楽しくさせるのが仕事である。店員の一人は全員でより良いサービスを提供しているといいます。

     3つ目の哲学は「お客に向き合う」です。
     お客様と積極的に向き合い会話をする。通りがかりのお客様をしっかり見る、決して無視しない。たとえ、電話でも、応対でもきちんと向き合う。

     4つ目の哲学は、「態度を選ぶ」です。
     これは店員の姿勢、心構えです。「朝、起きたら今日一日、どんな一日にするか」考える。 たとえ、気分がすぐれなくても自分で態度を選ぶのです。

     こうして、パイプ・プレイス魚市場は、お客様がわざわざ買いに来るので、今日も一日が賑わい、店員の創意工夫のパフォーマンスが笑いを起こすのです。

     6時前に起きる仕事は、魚を冷やす氷が冷たいし、仕事もきつい。しかし、魚屋の店員になりたい若者が大勢待機しているそうです。
     市場はこの魚を投げあうパフォーマンスなどで活気付き、観光スポットになりました。 従業員自らが楽しみ、職場を明るくし、顧客にも楽しませているのです。
     従業員が、「お客様に満足してもらうこと」に喜びを感じ、一生懸命なわけだし、従業員も職場を明るく楽しいわけだから、お客様が満足するのも当然です。
     これがフィッシュ哲学の由来です。


    Colum(フィッシュ哲学の活用)

    このフィッシュ哲学を、慈恵大学付属病院や九州各地で病院や介護施設を運営する「青洲会グループ」が導入し、従業員の士気の向上、看護師の離職率の減少だけでなく、新規採用の応募が増えた等の効果があったそうです。

    具体的事例として、
    ・院内で赤ちゃんが生まれたら子守唄を流して入院患者に知らせる。
    ・腕のリハビリにダーツを使う。
    ・班ごとのパンフを作り、患者が、どのパンフを多く持ち帰るかを争う。
    ・イメージキャラクターを作成する。
    ・カラフルなユニフォームを着用する。
    等です。

     この哲学は、着実に広まり、影響しあっていることの手応えを感じているそうです。

    「フィッシュ哲学」とインナーマネジメント

     従業員の満足度を重視し、優しい言葉や笑いを通じて仕事に対するストレスを少なくし、それにより顧客の満足度を高めることができる。
     この考え方は、私が提唱している「インナーマネジメント」と同じ考え方です。

    「遊び心を忘れない」「客を楽しませる」「客に注意を向ける」
    「つらい時も楽しく取り組めるよう自分の態度を選ぶ」

     

    楽しくなければ、仕事ではない。

     これは繰り返し述べていることです。

     内発的動機によって、職場環境の改善に取り組めば楽しい風土が創れます。
    「インナーワーク」で述べているように、顧客に対する思いやり、気遣いを意識することが大切です。

     フィッシュ哲学を従業員一人一人が実践することで 組織は活性化します。
     一人一人が、自分のやり方で楽しみながら自分の「フィッシュ!」を捕まえ 自分のやり方で実践しつづける、その結果として顧客サービスの向上が 図れるのですから、経費もそれほどかかりません。

     QCに代わる新しい「職場活動」として導入してみませんか。

    「何が楽しいか」で考えることで、職場の「場」を高めることができます。哲学と言うよりも、「心がけ」ですから、理解しやすく、効果もすぐ表れます。

    ≪余談、その①≫
     ある穀物卸売業の専務さん(奥さん)の言葉です。
     窓口に植木や花が飾ってある会社は、いい会社です。植木や花は、毎日の水遣りなど、細やかな部分に気配りができないと枯らしてしまいます。毎日の職場内の清掃、花や草木を飾る「きめ細やかな心遣い」などが社内環境を良くします。
     仕事をする前に、私はこれを一番大切にしています。
     この事さえ忘れなければ、会社はうまくいきます。

    ≪余談、その②≫
     ある会社の部長さんがまだ若かった頃、旅行会社の営業時代の話です。
     鹿児島の離島の旅行キャンペーンを企画し、東京の代理店の担当者をその離島に招待されたそうです。観光施設は何もないのですが、とにかく魚がうまい。
     アピールするのはそれしかないのですが、この部長さんは接待の席にその刺身を食べるための醤油を準備したそうです。 関東地区の醤油は九州の醤油と違って辛口であり、九州の甘口醤油は、関東の人には口に合わないだろうとの気遣いだったそうです。
     もちろん接待は大成功で、感謝の言葉をもらってうれしかったと話されました。
     今でも、当時、接待した担当者からその時の話が出るそうで、その部長さんにとっても大切な思い出だそうです。

     皆さんは、この話のすごさがわかりますか。どのような立派な経営理論よりも、私は感銘を受けました。

    このような人たちがいる会社は、いい会社です。
    いい会社はいい仕事をしています。
    いい仕事をしていれば、企業は成長し発展します。


    どこの会社にも、このようなエピソードがあるのではと思います。ちょっとしたなにげない事の中に大切なものが含まれています。それを探し続けることが、「インナーマネジメント」だと思っています。


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