第1話 コミットメントと一貫性について

 人の行動を方向づけるうえで、一貫性が強力な力を発揮することを理解すると、そもそもこの力がどのようにして関与しているかという重要で実際的な疑問がすぐに沸き起こってきます。
その一貫性は、コミットメントによって生み出されます。
人は立場を明確にすると、その立場と強固に一貫して行動しようとする傾向が自然と生じます。
 この心理は部下のマネジメントに活用できます。

競馬場で馬券を買った人びとについて興味ある事実を発見しました。
馬券を買った直後では、買う前よりも、自分が賭けた馬の勝つ可能性を高く見積もるようになっていたのです。もちろんその馬が勝つ可能性は現実にはまったく変わっていません。
しかし、ひとたび馬券を買ってしまうと、馬券を買ってしまった人の心の中では勝つ見込みが明らかに高まってしました。 このことは一見奇妙に見えるかもしれませんが、この劇的な変化は『コミットメントと一貫性』の原理で説明できます。

≪これはよく納得できると思います。一度決断すると、そのことを正当化しようという心理が働きます。これがコミットメントです。≫

自分がすでにしたことと一貫していたい(一貫していると見られたい)という欲求によるものなのです。ひとたび決定を下したり、ある立場をとると、そのコミットメントと一貫した行動をとるように、個人的にも対人的にも圧力がかかります。
そのような圧力によって、私たちは前の決定を正当化するように行動します。

①一貫性を保つことの便利さ
 しばしば一貫性を保つことが自分の利益になりますので、そうすることが賢明でない状況においても、自動的に一貫性を保つことが私たちの習慣になっています。
 しかし、考えもせずに一貫性を保つことが悲惨な状況を招いてしまうことがあります。
 それでも盲目的に一貫性を保つことは得がたい魅力があります。
ある問題に自分の立場をはっきりさせてしまえば、一貫してそれに固執することで大きな満足感が得られます。 それ以上、問題について真剣に考える必要がなくなるのです。
 以前の決定と一貫したことを信じ、行い、行動するだけでよいのです。
  このような満足感が持つ魅力を過小評価してはいけません。
多大な精神的労力を必要とする日常生活を営んでいく上で、便利で、比較的楽で、効果的な方法となるからです。 考え続けるという苦難を避ける道を与えてくれるのです。

≪自律とは、考え続けなければなません。これは大変な苦痛です。依存のほうが楽ですから、ひとはできるだけ楽な道を選びたがります。≫

②一貫性にしがみつくことの愚かさ
 機械的な一貫性には、もうひとつの手に負えない魅力があります。
 私たちが考えることを避けるのは、考える苦労のためではなく、考えることによって厳しい結果が生じるためであることが時々あります。
 理路整然と考えた結果、望んでいない答えがいまいましいぐらいはっきりしてしまうことがあるために、私たちは精神的な面で怠け者になってしまうのです。
 世の中には、知らないほうがましな嫌なことがいくつかあるものです。

≪臭いものにフタ。寝た子をおこすな。≫

自動的な一貫性は、あらかじめプログラムされており、よく考えないで反応する方法なので、嫌なことを知らないで済ませられる安全な隠れ家を提供してくれます。

③小さいことから始めて、そこから築きあげよ
意見を述べる→意見を書かせる→どう思うか考えさせる、発表する
→問題点のリストを作り、そこにサインをする。
→討論の場で、そのリストを読み上げる。
これが、コミットメントと一貫性の具体的な活用方法です。
小さいことから始める必要があります。

≪誰でも出来る簡単なこと、これを続けることから始めればよいのです。習慣化してしまえば、苦痛はくなります。毎朝の歯磨きなども、めんどくさいものですが、慣れてくると、しなければ、逆に気持ち悪くなります。≫

④フット・イン・ザ・ドアテクニック(段階的要請法)
 小さな注文から始めて、そこから商品全体へと拡大していくための道を開く・・・というのが一般的な考え方です。 相手の承諾を得たいとき、単純に要請するよりも、まず小さな要請をし、その後に大きな要請(本来の要求)をするほうが承諾を得やすいのです。
人は一度何らかの要請を承諾すると、二度目の要請を断りにくくなります。そのため、はじめの小さな要請に応じると、その後の大きな要請にも応じやすくなるのです。

≪これは有名な営業の基本的なテクニックです。≫

◆驚くべき実験の結果
フット・イン・ザ・ドア・テクニックの効果を示す実験があります。これは、1966年にフリードマンとフレーザーによって行われたものです。
実験では、まずボランティア(実験の協力者)がカリフォルニアの住民の家を訪問し、「安全運転」と書かれている小さなステッカーを車の窓に貼ってほしいと依頼しました。
その二週間後、別のボランティアが訪問し、「安全運転をしよう」と下手な字で書かれた(家の景観を害するような)看板を庭先に立ててほしいと依頼しました。
その結果、76%もの住民が看板を庭先に立てることを承諾しました。
ちなみに、はじめから大きい要請をした場合(看板を庭先に立ててほしいと単純に依頼した場合)には17%の住民からしか承諾を得られなかったのです。

第2話 コミットメントの条件

すべてのコミットメントが自己イメージに影響を及ぼす訳ではありません。 コミットメントが効果的に影響を及ぼすためには、いくつかの条件がそろっていなければなりません。

・行動を含むこと
人の本当の感情や信念は、言葉からではなく行動からわかります。ある人がどんな人であるかを調べようとする人は、その人の行動を詳しく調べます。行動が自己概念や将来の行動にじわじわと影響を及ぼすのです。

≪余談≫
目標達成のためのコミットメントの効果(アムウェイ社の場合)
販売員は自分の売上目標を設定するように求められ、それを個人的に書き記すことによって、その売上目標にコミットさせます。
はじめる前の最後の秘訣、それは目標を設定し、目標を書き留めることです。どんな目標であっても、目標を立てることが重要なのです。そうすれば自分が目指すものができます。
そして、その目標を書き留めるのです。
書くことは魔術的な力があります。
ですから、目標を設定しそれを書き写すのです。
目標を達成したら、さらに別の目標を立て、それをまた書き留めます。
書くことは、行動することです。

≪このアムウェイ社のような方法は、他の営業系会社もよく使っていますが、人間性を破壊するような気がします。この目標が、単なる金額の設定だったからです。利益至上主義ですし、個人の欲望を利用する悪魔のテクニックだと思います。そこに、人としての満足感はありません。
私は、住宅の飛び込み営業の仕事を二十年ほど経験しました。勝つか負けるかの世界は、もうたくさんです。疲れ果てました。
たしかに、仕事の社会的意義はあったのかもしれませんが、金額のノルマに追われ、モチベーションがなくなってしまいました。ただ、売上目標達成のためだけに仕事することに疲れ果て、仕事をやめました。≫

≪さらに余談≫
◆洗脳とマインド・コントロールは違います
 どちらも、相手の人権を無視して、むりやり操作する方法です。
洗脳は、拉致、監禁、暴力などの方法を使いますが、マインド・コントロールは、そのようなあからさまな違法行為は行わないもっとソフトな方法による操作です。
 コミットメントは本人の同意を元に、本人の意思で行うものですが、その境目は、あやふやです。
昔、流行った自己啓発セミナーなどは、私はマインド・コントロールだと思っています。

◆厚待遇というマインド・コントロール
 特別扱いという立場を与えることは、ものすごい効果を与えます。少しずつコミットメントを得ながら、特別の地位を与えることで、忠誠心が増すのです。

「虎の威を借る狐」

・公衆の目にさらすこと
 QC発表会などのイベントは、このために行います。
現代の会社でも、新入社員に、全員の前で誓いの言葉を言わせたりする企業があります。その言葉を文章にして、張り出したりします。そうすることで、やる気を出させるというような方法がありました。

このパブリックコメントは、使い方を間違いますと本人にプレッシャーを与えますから、心身症にかかりストレスで引きこもりになるというようなことが起こります。
この怖さは、人間が本来持っている「弱さ」を攻撃することですから、その「弱さ」が増幅する危険性があります。
≪余談≫
 レストランの予約を受ける場合、予約係の言葉の使い方一つで、無断キャンセルが減少します。
「変更がありましたら、ご連絡ください」と言うのではなく、「変更がありましたら、ご連絡いただけますか?」と尋ね、答えを待つようにするのです。
これによって、無断キャンセルが30%から10%に減ったそうです。

相手に質問し、相手にコミットメントさせることがポイントです。
「はい」とコミットメントした客は、それに従った行動をする可能性が高まるのです。 プライドが高い人、あるいは公的自意識が高い人に、特に有効です。
・努力を要すること
  コミットメントに努力が投入されれば、それだけ、コミットした人の態度に与える影響力が強まります。
「何かを得るために大変な困難や苦痛を経験した人は、同じものを最小の努力で得た人に比べて、自分が得たものに対する価値を置くようになる」という社会心理学者の見解があります。
 ある会のメンバーになるための通過儀礼的な「いじめ」や、「地獄の特訓」などを受けた後は、自分が属する集団を魅力的で勝ちのあるものと思うようになるそうです。

 これが、新入社員教育などで用いられている方法です。
 集団の存続にとって、その儀礼は大変重要な意味を持ちます。
軍隊などの集団が、苦痛を伴う訓練を定期的に行うのは、このコミットメントを強化するためなのです。

・自分の意思で選ぶこと
 QCなども発表会に優勝しても、貰えるものはたいしたものではありません。
 しかし、参加することは、モチベーションを高めます。

自分の意思で行った行為であるからです。
人は外部から強い圧力を受けずにある行動をすることを選択すると、その行為の責任は自分にあることを求めるようになると心理学者は明言しています。

 これは重要な意味を持っている。
社員が本心からやってほしい、そう願っていることを部下たちにさせるときは、決して魅力的な報酬で釣ったり、強く脅してはいけないということを教えているのです。

仕事の報酬は、新たな仕事へのチャレンジというかたちで与える。

≪この考え方は発見でした。
報酬を与えると、その報酬を得ることが目的化してしまいます。そうすれば、その報酬額に対する不満や不公平が生じるのです。条件付きの承認になってしまいます。すると、人間は無意識のうちに目的が変化し、条件を求めるようになります。≫

この社会心理学のコミットメントを活用する方法、それが、インナーマネジメントです。

行動をゲーム(遊び)と捉え、
公衆の目を意識し、
努力を要して、
自分の意思で、
職場における自分の仕事のモチベーションを上げる方法です。

この考え方が、フィッシュ哲学に使われています。
行動→「遊び心を忘れない」
公衆の目を意識する→「客を楽しませる」「客に注意を向ける」
自分の意思→「つらい時も楽しく取り組めるよう自分の態度を選ぶ」

楽しくなければ、仕事ではない。
これは繰り返し述べていることです。
実は、このような深い意味で使っています。
内発的動機によって、職場環境の改善に取り組めば楽しい職場風土が創れます。
「インナーワーク」で述べているように、顧客に対する思いやり、気遣いを意識することが大切です。
フィッシュ哲学を実践することで 組織は活性化します。

第3話 部下を管理するポイント

コーチングとカウンセリングを使う

 部下からいろいろな相談を受けた時、皆さんはどのような対応をしていますか?

①ティーチング = 部下の悩む問題に対する答えを考え教えること
→部下は瞬間的に答えがわかり喜び、その通りやるようになります。しかし、これが日常的に繰り返されると部下は答えを自分で考えることなく、いつも指示を待ち、依存的になる。

②一般論 = 一般的にありがちな事例、常識などを話し諭すこと
→一般論は部下本人も分かっているので意味がない。部下は、真剣に自分の状態について受け止めてもらえていないような間接的で無責任さを感じ、相談してもしょうがないと感じる。
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③経験談 = 自分の同様の経験談を話すこと
→参考になるが、部下にとっては状況も場面も違うので、本質的な自分の問題解決にはならない。もし説教モードに入れば、相談したことさえ後悔してしまう。

④同情(同化) = 相手の感情に引き込まれ、自分に起きたこととして同じ感情をもつこと
→部下の悩みを自分で悩んでしまう状態で、主役が自分で部下の状態をもはや意識していない状態。部下の感情は滞留し、愚痴や怒りがさらに高まる。

①~④の部下への接し方はよくありがちな態度です。しかし、実はどれも間違った部下への接し方です。

どうでしょうか、ええっ、と思いがちですが、自分の立場を部下に置き換えてみれば、何となくわかってきませんか?ではどういう態度がいいのでしょうか?
「管理する」ことをある程度放棄し「管理しない」ための学習と行動を身につける覚悟が必要です。

正しい対応は以下の通りです。

①「どちらを選べばいいか」とか、前向きな相談の場合
◎コーチング的アプローチ


→「あなたはどうしたいの?」「あなたは3年後にどうなっていたいの?」「理想の自分になれたら、あなたはどうなる?」「あなたの本心はどう言っているの?」と質問をする。
本人が目標に向かって、その方向性を模索していたり、目標自体の設定を迷ったり、悩んでいたりする時はコーチング的なアプローチをします。
「相手のための質問」をしながら、相手の気づきを促し可能性を広げます。
そして、「何をしたいのか」本音、本心に触れます。
本人が自分の目標の姿を明確にイメージし、そうなった時の気持ちを体感することで、決断し前に進んでいきます。 部下本人が、自らの目標を確認し、進む方向を見出し、具体的な行動が起きてきます。

≪アメリカから入ってきたコーチングという技法に対しては、私は全体としては否定的です。自律型で前向きな個人主義者には有効かもしれませんが、日本人には向かないと思っています。しかし、その技法の中で、「質問」という技法は、これまでの指示命令型のマネジメントにとっては革命的な考え方だと思いました。心理学的によく納得できます。時間はかかりますが、人材育成の観点から有用です。≫


②「がっかりです」などと落ち込んでいる場合
◎カウンセリング的アプローチ

→「どこが一番辛い?」「どんな気持ちなの?」「相手にどんな言葉を言いたい?」「今、心に浮かんだ言葉を全部吐き出してみて」
本人が怒りや悲しみ辛さなどで心が混乱している時、葛藤状態の時はカウンセリング的なアプローチをします。 本人の気持ちをしっかりくみ取り共感します。
これをフレンドリーサポートといいます。結論を出す必要はないのです。

本人が自分の心の状態を味わいつくし、溜め込んでいた苦しい感情をさらけ出すことで、整理され心が軽くなります。 苦しさや辛さの原因と前進のための糸口が見えてきます。 目を背けていたり、見えなかったりするテーマに正対することで、反発や葛藤状態から抜け出す気づきが起こります。
答えは自分の中にあります。